第150回日本獣医学会学術集会
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口蹄疫に関する特別シンポジウム


我が国における口蹄疫の大発生を受けて,
第150回日本獣医学会学術集会において口蹄疫に関する特別シンポジウムを開催いたします。
講師の先生方から,我が国ではかつてなかった口蹄疫の大発生を受けて、大変貴重なお話をご講演いただける予定です。多数の皆様のご参加をお待ち申し上げます。

※講演当日(9/15)、本会場であるレインボーホール(定員350名)が満席になりました場合には、同館内に設けましたサテライト会場へご案内させて戴きます。サテライト会場では本会場の講演を同時放映致しますが、質疑応答はできませんのでご了解下さい。

※シンポジウムへの参加は、学会参加事前登録をされた方に限らせていただく予定です。
お手数ですが、事前登録後に学会事務局より配信されるE-mailを印刷し、当日お持ちください。
学生参加者につきましては、当日会場受付にて学生証を提示してください。


特別シンポジウム
「世界の口蹄疫の現状と我が国における口蹄疫の発生について」


日時 : 平成22年9月15日(水)18:30〜20:30
場所 : とかちプラザ レインボーホール
帯広市西4条南13丁目1番地(Tel:0155-22-7890)


「特別シンポジウム開催にあたって」
 五十嵐 郁男
 (第150回 日本獣医学会学術集会会長)

 座長 : 明石 博臣 (東京大学大学院教授・微生物学分科会会長)
今井 邦俊 (帯広畜産大学動物・食品衛生研究センター教授)

【特別講演1】
「口蹄疫を巡る国際的な家畜衛生情勢と防疫の現状」
 講師 : 村上 洋介
 (帝京科学大学生命環境学部教授 / 前動物衛生研究所所長)

【特別講演2】
「宮崎県における口蹄疫の発生について」
 講師 : 吉村 史朗
 (農林水産省・消費・安全局・動物衛生課 / 分析官)


特別シンポジウム開催にあたって

 本年春に宮崎県で発生した口蹄疫は、想像を絶する勢いで拡大し続け、我が国の歴史上初めて口蹄疫ワクチンの接種が実施されるという未曾有の事態へと発展してしまいました。6月24日現在、約27万頭の家畜が刹処分され、宮崎県の畜産業は壊滅的な打撃を受けています。このような危機的状況の中、第150回日本獣医学会学術集会の開催に合わせて、口蹄疫特別シンポジウムを企画致しました。ご講演は、我が国きっての口蹄疫の専門家である村上洋介先生と、口蹄疫の防疫実務を所掌されている動物衛生課の吉村史朗分析官にお願い致しました。日本を取り巻く世界における口蹄疫の厳しい現状を知り、今回の我が国における口蹄疫の大発生について理解を深める上で、両先生から大変貴重なご講演を戴けるものと思います。両先生におかれましては、大変お忙しい中にも本シンポジウムでの講演をお引き受け戴きました事に、この場を借りて厚くお礼申し上げます。本シンポジウムの開催が実り多きものとなり、我が国においてこの先も続くかもしれない口蹄疫の脅威に立ち向かうための一助となれば幸甚です。
 尚、参加者の皆様におかれましては、本シンポジウムが日本獣医学会学術集会への参加者を対象とした学術目的であることをご理解戴き、有意義なシンポジウムとなるようご協力下さいます様お願い申し上げます。
第150回 日本獣医学会学術集会
会長 五十嵐 郁男
【特別講演1】
「口蹄疫を巡る国際的な家畜衛生情勢と防疫の現状」
 村上 洋介
 (帝京科学大学生命環境学部・教授)

 21世紀に入って新興国を中心に畜産革命と呼ばれる著しい畜産振興が続いている.主要畜産国は欧米から今やアジアなど新興国に移りつつあるが,その中には依然疾病対策が不十分な地域があって,近年こうした地域を中心に口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザなどの感染症が発生しては近隣国に拡大するようになった.国連農業食料機関(FAO)と国際獣疫事務局(OIE)が,“発生国の経済,貿易及び食料の安全保障に大きな打撃を与え,国境を越えて拡がりやすく,その制圧には国家間の協力が必要な動物感染症”と定義する越境性動物疾病の拡大である.口蹄疫はその言葉通りの越境性動物疾病の代表疾病である.

 世界保健機関,FAO 及びOIEが共同運営する世界の動物疾病の早期監視システム(GLEWS;The Global Early Warning and Response System for Major Animal Diseases, including Zoonoses)において,口蹄疫は人獣共通感染症ではない疾病群に分類されているように,その公衆衛生上のリスクはほぼ無視できるレベルであるが,家畜の経済的価値を奪うという意味で,口蹄疫は畜産業にとってきわめて重要な動物感染症であるといえる.つまり,口蹄疫の罹患動物には,心筋炎による幼獣の死亡,流産,泌乳量の急減,次いで口,蹄及び乳房の水疱形成が起こる.水疱は二次感染を伴い口腔の炎症や落蹄などから摂食困難と起立困難を起こすので,農場は長期にわたる発育障害や泌乳障害により経済的損失を被る.家畜や乳などの出荷と飼料等の資材導入が頻繁に行われる動的環境にある農場では,人,物及び車両などを介して急速に広い地域に疾病が拡大するので,現実問題として個体治療は難しい.このため口蹄疫の防疫は迅速な殺処分と消毒及び移動規制を基本とする.家畜が排出するウイルス量を低減させ感染の拡大を防ぐことを目的に緊急ワクチン接種も行われるが,ワクチンは発病を防いでも感染を防ぐことはできないので,ワクチン接種を継続して口蹄疫ウイルスの感染そのものを根絶した国や地域は従来ほとんどみられない.口蹄疫の発生が開発国では突発的な社会・経済的な問題となり,開発途上国では貧困の原因や食料問題になるのは,こうした理由による.

 口蹄疫ウイルスは1898年にFriedrich LoefflerとPaul Froschによって濾過性の新しい病原体として発見された.それは動物ウイルスの初めての発見でもあったが,培養細胞で効率よく増殖し精製も容易であるために,これまで動物ウイルスの中では比較的研究が進んだウイルスのひとつでもある.それにも拘わらず未だ発生が絶えないのは,口蹄疫ウイルスとその病性の“多様性”にあるといえる.すなわち,ウイルスゲノムは8,500塩基からなる(+)センス一本鎖RNAで一回の増殖でさえ1-8個の塩基置換が生じる.相互にワクチンが効かない7種類の血清型があり,同一血清型のウイルス株間でも抗原は著しく多様である.感染する動物種は偶蹄類を中心に60種類以上に及ぶ.人類が家畜化して肉,乳あるいは皮毛などを得てきた動物の多くが偶蹄類で,すべてがこのウイルスに感染するが,それらの病態や免疫応答は動物種ごとに相違があって必ずしも一様ではない.このために,発生地に飼養されている家畜の種類や密度の違いによって症状や感染拡大の規模が異なり,その都度防疫の手法を巡って混乱を起こしている.

 こうした口蹄疫防疫上の困難性から、世界貿易機関(WTO)の“衛生と植物防疫のための措置協定(SPS;Sanitary and Phytosanitary Measure)”の枠組みにおいて,口蹄疫についても,OIEが“陸生動物の衛生規約”(Terrestrial Animal Health Code)により,国や地域ごとの清浄度区分,清浄国復帰条件及び種々の畜産物の検疫条件などを細かく規定している.口蹄疫の防疫において選択する手法もこの規約との整合性が意味を持つ.

 この特別シンポジウムでは,最近になって口蹄疫清浄国が経験した発生とその防疫対応などを中心に,口蹄疫を巡る国際的な家畜衛生情勢と防疫の現状を概説する予定である.
【特別講演2】
「宮崎県における口蹄疫の発生について」
 吉村 史朗
 (農林水産省・消費・安全局・動物衛生課 / 分析官)

1.発生の概要
(1)原因ウイルス
  本年4月20日、農林水産省は、宮崎県児湯郡都農町の繁殖牛農家の飼養牛に口蹄疫の疑似患畜が確認され、これに伴い、同日、同省に口蹄疫防疫対策本部を設置したことを発表した。その後、その原因ウイルスについては、(独)農研機構動物衛生研究所による抗原検出検査の結果、口蹄疫(O型)と確定し、また、口蹄疫の国際確定診断機関(リファレンスラボラトリー)である英国家畜衛生研究所(英国、パーブライト)による分析の結果、最近、中国、香港、韓国等のアジア地域で確認されている口蹄疫ウイルス(Southeast topotype)と近縁のウイルス(O/JPN/2010)であることが確認された。このウイルスの侵入経路はこれまでのところ、特定されていない。
(2)発生状況
  疫学調査、抗体検査等の結果から、このウイルスは、3月中旬頃、都農町に侵入し、初発例が確認された4月20日には少なくとも10例以上の農場に侵入していたものと推察されている。発生を時系列にみると、初発の直後に隣接する同郡川南町のみならず、距離的に離れたえびの市に拡大し、更に同郡内で高鍋町、新富町、木城町、同郡に接する西都市、また距離的に離れた都城市、同郡に接する宮崎市と日向市、国富町に拡大した。発生は7月4日に診断確定した宮崎市の発生を最後に292件(殺処分頭数は、牛37,412頭、豚174,132頭、水牛42頭、山羊14頭、めん羊8頭の計211,608頭)に及んだ。
(3)症状
  感染動物では発熱、元気食欲不振の全身症状のほか、口腔、舌、鼻鏡、鼻腔、蹄部及び乳器の水疱形成、蹄部びらんによる跛行(豚で顕著)、流涎(牛で顕著)、乳量減少等の症状が観察された。牛では一般的に豚に比べ症状が軽く、初期診断の段階で既に瘢痕化した病変が観察された事例もあった。
(4)まん延等の背景
  初発地域は、全発生件数、292件のうち197件が川南町で発生するなど、全国でも有数の畜産地帯であった。このような周密地帯における感染拡大に、人、車両等が関与した可能性が否定できないほか、ネズミ、鳥、ハエ、飛沫核等を介した近隣伝播の可能性も考えられる。更に、殺処分畜の埋却用地確保が困難となり、殺処分が迅速、かつ円滑に進まなかったことが、地域内ウイルス滞留量の増加につながり、まん延の一要因になったことも否定できない。このような発生があった発生地域から離れたえびの市、西都市及び日向市の発生は人、車両等が関連している可能性がある。他方、都城市や日向市において続発がなく、短期間のうちに清浄化が達成されたことは、早期発見・早期通報、迅速な病性鑑定と、迅速なまん延防止措置の実施の重要性を物語っている。

2.防疫対策
 口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針に基づき、発生農場においては隔離、患畜・疑似患畜の殺処分及び埋却、消毒等の措置が、また発生農場を中心とした半径10km以内の区域においては生きた偶蹄類の家畜やその死体等の移動の禁止等を行う移動制限措置が、更に発生農場を中心とした半径10〜20km以内の区域においては、生きた偶蹄類の家畜の搬出制限区域以外への移動の禁止等の措置が行われた。
 上記1.(2)の発生状況に鑑み、発生地域の更なる拡大を防ぐため、口蹄疫が発生した児湯郡内の発生に関連する移動制限区域(都農町、川南町、高鍋町及び新富町の全域、並びに西都市、木城町、宮崎市及び日向市の一部地域)で飼養される偶蹄類の家畜を対象にして口蹄疫ワクチンの接種(接種家畜は殺処分)、一般車両を対象とした消毒、散水車を活用した幹線道路の消毒薬散布等が行われ、宮崎県及び隣接する大分県、熊本県、鹿児島県全域では消毒薬を配布し、散布が行われた。

3.教訓
  今回の発生を教訓として、(1)早期発見及び早期通報のための監視体制の強化、(2)発生時における迅速な殺処分及び埋却等により発生被害を最小限に食い止めることが基本であり、次のことを的確に措置することが重要である。
(1)発生の予防
(2)発生時の対応(まん延の防止)
[ 1 ]異常家畜発見の早期通報
[ 2 ]迅速な病性鑑定対応及び病性決定までの間のバイオセキュリティの維持
[ 3 ]殺処分、埋却等のまん延防止措置の迅速な執行
[ 4 ]移動制限区域内の異常畜の有無の確認、バイオセキュリティの強化
(3)普及啓発